お客様の成功のために、手を変え品を変え、試行錯誤しながら取り組む。それが「カスタマーサクセス」のはずなのに、なぜかお客様との信頼が壊れていく——SIerの現場では、こんな矛盾が静かに起きています。
「一発で正解を出せ」というプレッシャー
プロに求められることは、一発で正解を出すこと。そのプレッシャーの中で、何度も試行錯誤することで、お客様には「騙されている感」が積もっていく。挙句の果てには、「何が正解かわからない」と言われる始末です。
これは、担当者の能力や誠実さの問題ではありません。システム開発という仕事の性質そのものに、この矛盾の原因があります。
マルチベンダー時代の現実
昔と違って、現代のシステムは1つのメーカーの製品で作られているわけではありません。
| 昔のシステム構成 | 現代のシステム構成 |
|---|---|
| 単一ベンダーが一括提供 | 複数メーカーの製品が組み合わさって稼働 |
| 障害発生時の責任が明確 | 障害の原因がどこにあるか特定が困難 |
| 1社に問い合わせれば解決 | 各メーカーに問い合わせても「うちではない」 |
| 全体像を把握しやすい | 誰も全体像を完全には把握できない |
マルチベンダー製品が組み合わさったシステムでトラブルが発生すれば、原因究明に時間がかかります。各メーカーに問い合わせても特定には至らない。そして現場のSIerだけが悪者扱いされる。
こんな状況、いろんなプロジェクトで起きているのではないでしょうか。
医者・弁護士と、SIerの違い
ここで、少し違う職業と比べてみたいと思います。
医者も弁護士も、試行錯誤の末に命や人生を左右する結果になることがある。
それでも社会は、その仕事の複雑さと不確実性をある程度理解している。
ではSIerはどうか。
システムの複雑さ、マルチベンダーの不確実性——それがまだ社会に十分理解されていない。だから「なぜできないんだ」という言葉が、躊躇なく現場に向かってくるのです。
これは個々のSIerの問題ではなく、産業全体のコミュニケーションギャップだと、私は考えています。
試行錯誤は「無責任」ではない
それでもSIerの皆さんは、誰も全体像を把握していない複雑なシステムの中で、お客様のために動き続けています。
その試行錯誤は、無責任の証ではない。
複雑な現実に、真剣に向き合っている証だ。
「一発で正解を出せ」という要求は、その仕事の複雑さを理解していないところから来ています。そして「騙されている感」は、試行錯誤のプロセスが可視化・説明されていないところから生まれる。
つまり、解決すべきは「試行錯誤そのもの」ではなく、「試行錯誤の見せ方・伝え方」なのかもしれません。
コンサルとして、今できること
コンサルという立場から、はっきり伝えたい。
SIerの仕事の複雑さと誠実さを、私は見ています。
私たちにできることは、次の3つだと考えています。
| ① | 複雑さの「見える化」 | マルチベンダー構成や調査プロセスを、お客様が理解できる言葉で可視化する。「なぜ時間がかかるのか」を先手で説明する。 |
| ② | 試行錯誤の「共有」 | 「今ここまでわかった、次はここを試す」というプロセスをリアルタイムに共有する。透明性が「騙されている感」を消す。 |
| ③ | 社会への「発信」 | SIerの仕事の実態を、業界の外に向けて発信し続ける。理解される日が来るよう、一緒に声を上げていく。 |
その苦労が正しく理解される日が来るよう、一緒に声を上げていきたいと思う。
共感してくれる人は、きっといる。