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DXが止まるのは、反対されるからではありません。誰も反対しないからです。

DXが止まるのは、反対されるからではありません。誰も反対しないからです。

DXが止まるのは、誰かに反対されるからではありません。

誰も反対しないまま、動かないのです。

部門をまたぐ改善を持っていくと、反対はされません。「いいですね」と言われます。そして、何も起きません。次の会議でも議題に乗らず、優先度が静かに下がっていきます。

反対なら、まだ議論ができます。でもこれは議論になりません。だから止まったことにも気づきにくい。

「DXを進めろ」と言われて、ツールを調べては振り出しに戻っている方に向けて書きます。止まっているのは、おそらくツールの手前です。

私は中小企業のIT化を支援しています。業務改善から入る案件も多く、DXの前段にあたるところをよく見てきました。

止まる場所は、いつも同じでした

業務改善でお手伝いに入ると、たいてい同じ場所で止まります。

部門をまたぐところです。

一つの部門の中だけなら、改善は進みます。手順を変える。転記をやめる。帳票を1枚にする。ちゃんと効果も出ます。

ところが、その先が続きません。隣の部門のやり方を変えないと全体は良くならないのに、そこへ踏み込めない。結果、部門ごとに小さく整った状態で終わります。部分最適です。

全体としては、何も速くなっていません。

そしてこのとき、原因はツール選定にあったと考えて、次はもっと良いツールを探しに行く。ここが分かれ道だと思っています。

誰も口に出さないのに、全員が従っているルール

なぜ踏み込めないのか。

管轄ではない部門には触ってはいけない。

どの会社にもある暗黙のルールです。就業規則には書いてありません。研修でも習いません。

そして、誰も口に出しません。「それはうちの管轄だから触るな」と言われることは、まずないと思います。

口に出されないから、効いているのです。

明文化されていれば、議論ができます。例外も作れます。でも誰も言わないルールは、交渉のテーブルに乗りません。全員が知っていて、全員が従っていて、議題にはならない。

なぜ、越えないほうが得なのか

このルールを破って全体最適に動こうとすると、何が起きるか。

うまくいけば、手柄は取られます。 部門をまたいだ改善は、最後は上位の判断や他部門の協力で形になります。動き出しを作ったのが誰だったかは、成果が出るころには誰も覚えていません。

失敗すれば、そのあおりを被ります。 他部門を巻き込んで止まった案件は、巻き込んだ側の責任になります。余計なことをした人、という見方がしばらく残ります。

成功しても得が小さく、失敗すれば確実に損をする。

つまり、越えないのが合理的なのです。

現場が動かないのは、やる気がないからでも、ITリテラシーが低いからでもありません。動くと損をする構造になっているからです。

そして損得の計算は、口に出されません。だから表向きは「いいですね」で終わります。

正しさでは、人は動きません

ここが分かると、よくある失敗の意味も変わってきます。

担当者は正しいことを言っています。全体で見ればこちらが得だ、と。資料も作ります。数字も出します。それでも動きません。

全体最適は、組織にとっての正しさです。動く本人にとっては、自分の持ち出しでリスクを取る話です。

正しさを説明しても動かないのは、相手が分かっていないからではありません。分かったうえで、割に合わないと判断しているからです。

ここを「意識が低い」で片づけてしまうと、次の一手が永久に出てきません。

改善案を作る前に、取り付ける4つ

担当者ひとりでは、この壁は越えられません。構造の問題なので、構造を変えてもらう必要があります。

上の人に取り付ける条件が4つあります。

1. 「越えてよい」と明言してもらう

暗黙のルールは、暗黙だから効いています。逆に言えば、言葉にすれば外れます。

「この件については部門をまたいで検討してよい」と上位の人が口に出す。資料は要りません。会議で一言言ってもらうだけです。これが一番効きます。

2. 手柄の帰属を、着手前に決める

成功したとき誰の成果とするかを、始める前に決めます。「共同の成果」でかまいません。大事なのは、後で決めないことです。後で決めると、必ず声の大きいほうに付きます。

3. 失敗の責任は、やると決めた人が持つ

担当者が負うのは、実行の責任だけにします。やると決めた判断の責任は、決めた人のものです。これを先に言葉にしておくと、他部門を巻き込む時の怖さが半分になります。

4. 狭く始めて、広くする

よく言われる「小さく始めて、大きくしていく」とは少し違います。

小さく始めようとすると、一つの部門の中で完結する話になりがちです。それでは壁を越える練習になりません。何年たっても、部分最適が増えるだけです。

やるべきは、狭く始めることです。部門はまたぐ。そのうえで、対象をひとつの業務、ひとつの帳票、ひとつの受け渡しに絞ります。幅を狭くして、越えることだけを先に通してしまう。

狭ければ、戻すのも簡単です。あおりを被る怖さは、戻せないことから来ます。狭く始めれば、巻き込まれる側も受けやすくなります。

そして一度越えられれば、次からは「前にやったことがある」になります。暗黙のルールは、一度破られると弱くなります。そこから広げていきます。

この4つが取れていれば、現場は動きます。取れていなければ、どんなに良い改善案でも止まります。

ツールは、後からでも間に合います

DXが進まないと聞くと、ツールやベンダーの話になりがちです。でも私が見てきたかぎり、止まっていたのはもっと手前でした。

越えてよいと言われているか。手柄は誰のものか。失敗したとき誰が責任を持つか。そして、狭く始められているか。

ここが決まっていれば、ツールは後からでも間に合います。逆にここが決まっていないままでは、どんなに良いツールを入れても現場は動きません。

もし今、部門の壁の前で止まっているなら、改善案を練り直す前に、この4つを上の人に聞いてみてください。

「いいですね」と言われたまま何も起きなかった経験がある方の、手がかりになればうれしいです。

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