名刺管理システムをあえてスクラッチで作る会社に、少し違和感がある話
「え、そこを自社で作るんだ……?」——正直にいうと、かなり強めの違和感を覚えました。
今回は、その違和感の正体を自分なりに言語化してみます。
まず前提として、名刺管理は「大事だけど差別化しにくい」領域だと思う
名刺管理そのものは、もちろん大事です。営業活動や顧客接点の管理の入口にもなりますし、社内で情報を共有するうえでも役に立ちます。
ただ、多くの企業にとって、名刺管理は事業の競争優位そのものというより、業務をきちんと回すための基盤に近いものではないでしょうか。名刺を読み取る、データ化する、共有する、CRMやSFAに連携する——こうした機能はいまではかなり一般化されています。
「SaaSを買う方が正しい」とまでは言わないけれど
build vs buy の話は、実際にはそんなに単純ではありません。SaaSを導入する場合にも、要件整理・比較検討・調達・連携・運用ルール整備など、それなりの負荷はかかります。なので私は「とにかく買えばいい」とまでは思っていません。ただ、名刺管理のような非差別化領域にあえてスクラッチを選ぶなら、それ相応の説明責任が必要だとも思っています。
スクラッチ開発は、「自由」より先に「責任」が増える
スクラッチ開発って、言葉だけ見ると魅力的なんですよね。「自社向けに最適化できる」「余計な機能がない」「ベンダーに縛られない」。どれもたしかに、その通りです。でも、現実にはその「自由」と引き換えに、かなり多くのものを自分たちで持つことになります。
作って終わりではなく、作ってからが本番です。このあたりを軽く見ている内製判断は、やっぱり少し危ないなと思います。
「SaaSは高いから内製のほうが得」という話に、私はあまり乗れない
SaaSは月額費用がはっきり見えるので「高い」と感じやすい。一方で、内製の人件費は組織コストに埋もれて見えにくい。その結果、内製のほうが安く見えることがあります。でも、これはかなり危ない見え方です。
内製には「機会費用」がある、という話がけっこう大きい
社内のエンジニアや企画担当者が名刺管理システムの開発に時間を使うということは、その人たちが本来もっと別のことに使えた時間を失うということでもあります。
「作れるから作る」と「それを会社として作るべきか」は、やっぱり別の話なんですよね。
「ベンダーロックインが嫌だから内製する」は、半分だけわかる
SaaSを避ける理由として、ベンダーロックインを気にする声もあります。これ自体は理解できます。ただ、見落としがちなのは、内製したからロックインが消えるわけではないということです。担当者が異動・退職し、仕様を深く理解している人が減っていく——それは単に、ベンダーロックインが自社ロックインに置き換わっただけかもしれません。
もちろん、内製が合理的なケースはある
- 非常に厳しい情報統制・監査要件がある
- 権限設計が特殊で、SaaSでは対応不可能
- 基幹システムと深く統合する必要がある
- 一般的なSaaSでは絶対に満たせない固有要件がある
ただし、その場合でも必要なのは「なんとなく自社向き」ではなく、どの要件が、どのSaaSでは、なぜ満たせないのかが具体的に言えることだと思います。
私が「それ、ちょっと危ないかも」と感じる判断基準
もし私がその企業の判断を見るなら、次の5つを確認します。
- SaaSでダメな理由が具体的に説明されているか
- その仕組みが本当に競争優位につながるのか
- 初期費だけでなく、5年単位の保守まで見ているか
- 作る側の希望と会社全体の合理性を混同していないか
- 内製後の属人化や内部ロックインを理解しているか
特に、この3つが揃うと私の中ではかなり赤信号です。
- SaaS比較が浅い
- 経営効果が曖昧
- 保守コストを見ていない
名刺管理システムをあえてスクラッチで作るなら、かなり強い理由が必要。
そうでなければ、まずはSaaSを軸に考えるほうが自然です。
差別化の中心でないものを自前で重く抱えることには、想像以上のコストと責任がついてきます。
この問いにちゃんと答えられるなら、内製は戦略だ
本当に必要だったのか。SaaSではだめだったのか。その開発に使った時間と人を、もっと価値の高いことに回せなかったのか。
この問いにちゃんと答えられるなら、内製は戦略です。でも、答えられないなら、それは少し危うい判断かもしれません。

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